友也くんのこと

 友也くんの話をさせてほしい。

 


 私が友也くんと出会ってから、一年半ほどが経つ。
 その日、私はひまだった。信じられないくらい。あんまりひまだったので、以前から存在は知っていたあんさんぶるスターズ!!というソシャゲをダウンロードした。3Dモデルが踊る音ゲーとのことだったので、にわかでもひまは潰せるだろうと思ったのだ。
 そしてもうひとつ、あんさんぶるスターズ!!には深い感情と感情を向けあう男と男が山のように出てくると聞き及んでいたので、ひとつくらいは私が求めるBLがあるんじゃないかという期待もあった。
 私あんすただとどこが好きだと思います? というアバウトな問いにていねいにも答えてくれたフォロワーの、『友渉っていうのもあります』という発言とともに提示された一枚のスクリーンショットに映っていたのは、猫耳を生やしたかわいい男の子の姿だった。
 2020年6月2日のことであった。
『ま子@3cacusan
 友渉 ふーん……
 posted at 19:29:12』
 これが私と友也くんとのファーストコンタクトである。
(へえ、この子が攻めなのか)
 と私は思った。「友渉」としてとなりにいたのは、友也くんよりあたまひとつぶんほど大きい、長髪のみょうちくりんな男だった。こいつが受けか。なるほどね。
 とりあえず「友渉」で検索し、攻めの男の子が「真白友也」という名前であることを知った。画像検索をして度肝を抜かれた。かわいいさまざまなカードが並ぶなかに、ピンクにフリフリのドレスにウィッグまで着用した、それはもうめちゃめちゃにかわいいお姫さまのようなカードが存在していた。(これはほんとうにいまでも暴れ出しそうなほどかわいいカードなので、ぜったいに『真白友也 姫』で検索して確かめてください。ぜったいに)
 「このかわいい女装が似合う男の子が攻め」という事実は、信じられないほどの勢いで私の心を掴んだ。彼が所属しているユニットが、「かわいい」をテーマにしたユニットであること、そして彼自身の設定として特別に「かわいい男の子」なのではなく、「ふつうの男子高校生」であるところも追い打ちをかけた。
 それからはちびちびとメインストーリーを読んで暮らした。六月の十一日にはもう友也くんが所属するRa*bitsの特典付きアルバムCDを購入するに至っていた。友也くんの「あーんして!」という歌声を延々リピートしながらメインストーリーを読み終わり、やっと友也くんの出番が多いRa*bitsや演劇部にまつわるイベントストーリーを読み始めた。きっかけとなったくだんのフォロワーに「どうしてこんなノーブレーキで友也くんに落ちて行ってるのかわからなくて怖い」と言わしめる勢いだった。
 十四日に、友也くんと渉に関連する重大なイベントストーリーのうちのひとつである「対決!華麗なる怪盗VS探偵団」を読み終わった。
 友渉がはじまった。
 同時に思ったのだ。これは、リバだ。リバの可能性が高い。私が求めていたものを満たしてくれる可能性がものすごく高い、と。
 ――というよりも、このころにはもう、友也くんのことがとてつもなく大好きになりはじめていた。
 以上が、おおまかな私と友也くんとの出会いである。
 以降はひとつひとつ順を追って友也くんのことを紹介してゆきたいと思う。なお、ここに記す友也くんについての情報は、プロフィール以外は完全に私の主観であることを事前に断っておく。


友也くんのプロフィール

 真白友也(ましろ ともや)。誕生日は三月二十九日。あんさんぶるスターズ!(以降ズ!)春時点で夢ノ咲学院一年生、十五歳。あんさんぶるスターズ!!(ズ!!)春時点にて進級し二年生、十六歳。アイドルユニットRa*bits所属(後述)。夢ノ咲学院演劇部所属(後述)。ズ!!における寮内サークルでは「劇団ドラマティカ」「いきものクラブ(アニマルズ)」所属。
 身長167センチ(ズ!)→168センチ(ズ!!)。体重53キロ。血液型A型。
 お気に入りのものは枕(枕が変わると眠れない)。趣味は音楽鑑賞、マンガ。嫌いなものはゴーヤ。家族構成は両親、妹。特技は動物に好かれやすいこと。一人称は「俺」。好きな食べ物はオムライス。
 『良くも悪くも平均的なタイプ。アイドルの他に演劇にも励んでいる。 真面目な性格で面倒見も良く常識的だが、周りに振り回されやすい。 控えめながらあたたかな歌声を持ち、パフォーマンスは力いっぱい。 『Rhythm Link』の『Ra*bits』に所属し、リーダーを務めている。』(あんさんぶるスターズ!!公式サイトより)

 

1、Ra*bitsについて

 友也くんはアイドルに憧れており、アイドルを目指して、有名なアイドル養成科のある夢ノ咲学院に入学する。ところがなかなかユニットを組むことができずに(友也くんが入学した当時の夢ノ咲学院ではソロアイドルはほぼ絶滅状態にあり、ユニットを組んで活動するのが一般的である)、中学からの幼なじみである紫之創と途方に暮れてしまう。
 そんな状態を打開したのが、友也くんが所属する演劇部部長の日々樹渉であった。彼については後述するが、彼に紹介(なかば押しつけ)された三年生の仁兎なずながユニットをサポートしてくれることになり、そして同じくユニットが組めずにぶらぶらしていた一年生の天満光も加わり、四人は三年生ひとりと、未経験の一年生三人の四人で、「かわいい」をユニットテーマにしたRa*bitsとして活動してゆくことになる。

 

2、演劇部について

 友也くんは中学時代、日々樹渉の公演を見て、およそふつうではない、すさまじい表現力を持つ彼(公演ではお姫さま役を演じていた)に「俺の、女神さまだよ~♪」とあこがれを抱く。もともと目指していた夢ノ咲学院への進学希望をさらに強め、そして念願の演劇部に入部する。
 しかしそのあこがれの日々樹渉は公演での様相とはまるで違う、わけのわからない練習を部員に科し(嫌がる友也くんを追いかけまわす・女装を強いる・見ず知らずの他人の家にホームステイさせる等々……)奇怪な仮面を好む、みょうちくりんな態度の男であった。友也くんはそんな渉の落差にひどくショックを受け、「俺の女神さまだと思ってたのにっ、こんな頭のおかしい変態だったなんて~⁉」「近づくな! 通報するぞ! こここ殺すぞ……!」「騙したな! 弄んだんだ、俺の気持ちを!」等々のさんざんな嫌悪ぶりを見せる。
 こんな部活やめてやる、と言いつつも結局友也くんは演劇部をやめることはなく、部長・日々樹渉ともう一人の先輩・氷鷹北斗、そして友也くんの三人で演劇部は活動を続けてゆくことになる。

 

 


友也くんの好きなところ

1、良くも悪くも「ふつう」なところ

 友也くんのキャッチコピーは、ズ!時代は「普通が一番……じゃだめ!」、ズ!!時代は「普通で真面目が取り柄」だ。意味は百八十度変わっているが(それも最高!)、とにかく「ふつう」が彼のアイデンティティである。
 実際、友也くんは「ふつう」だ。家族仲は本人曰くそこそこ良く、私立の高校に進学できたところからも平均的な中流家庭であることが伺われる。顔立ちも人よりもちょっとかわいらしい(同級生には「ちいさいこどもみたいにかわいい」と評されているものの)だけで、特別な美形というわけでもない。歌もダンスも秀でたところはなく、演劇でも特筆するような才能はない。
 だけど「ふつう」に、まじめで、前向きで、なにごとにもめげない気概を持っている。
 同時に「ふつう」に、にんげんの醜さも併せ持っている。
 私がとくに好きなストーリー「お化けがいっぱい☆スウィートハロウィン」「十五夜*玉兎跳ねるムーンライト」では、友也くんとユニットメンバーである創、光、それぞれとの断絶が描かれる。
 「お化けがいっぱい☆スウィートハロウィン」では、親友である創とユニットテーマである「かわいい」の方向性の違いで大きな喧嘩をしてしまう。創はひどくかわいらしい容姿をした少年なため、「女の子みたいにかわいい」をメインに押し出した先輩から目をかけられ、そちらの方向に力を入れ始める。ところが友也くんはそういった「かわいい」には違和感があり、創と喧嘩をしてしまうのだ。
 「十五夜*玉兎跳ねるムーンライト」では、次に行われるライブの演出をめぐって周囲に才能を認められる光に、友也くんが劣等感を抱く。ふだん友也くんは光の世話焼きなお兄ちゃんのような態度で接していて、だからこそその才覚を目の当たりにして辛く思うのだ。
 どちらも共通しているのは、友也くんから創・光ふたりへそれまで抱いていた優越感。友也くんはいつでも自分に満点があげられない。「ふつう」だから、特筆できることがないから、胸を張れる自信が心の底から持てない。だからふだんから「ふつう」ではいられない創や光の手を引いてあげていることを、みずから「えらそうにしてる」「優越感」と表現する。そして事実、それは間違いではなく、なんのとりえもない(と思っている)自分でもこんなふうに手を引ける相手がいるということが彼のひとつのよりどころであり、なおかつ、だからこそ手を引いていた相手が自分を置いて走り出してしまいそうになると、とたんにぐらついて置いてきぼりにされた気持ちになってしまうのだと思う。
 友也くんのいかにも「ふつう」っぽい、自分ができる「ふつう」をできない相手に対してえらそうになってしまうところ、だけどそんな「ふつう」な自分に劣等感があるところ。親しい友人に対する優越感と劣等感が入りまじった感情。
 だけどそれは、友也くんの「長所」「短所」として描かれてはいない。いいところも、悪いところも、含めてすべて「真白友也」という存在なのだ。

 

2、だけど「かわいい」を受け入れ強みとしているところ

 さて、そんなふつうの友也くんだから、「ふつうの男子高校生」として、はじめ「かわいい」に抵抗を見せる。
 前述した創との確執でも「かわいいユニット」としての方向性に違和感を持ち、みずからが望まない方向性を強制されることをいやがる。もともと友也くんは「かっこいいアイドル」にあこがれていたのだ。けして「かわいいアイドル」をやりたかったわけではない。
 「かわいい」は、劣ったもの、軽視されていいもの、舐められて当然のもの、とりわけ男性ジェンダーの持つ「かわいい」はずっとそう扱われてきた。だからごく平均値の男性ジェンダーを持つ人は「かわいい」から遠く在ろうとする。友也くんも、十代後半の少年というおよそ「かわいい」を忌避するスタンダードである。
 カワイイを無価値だとする男は、成長過程で「かわいい」を捨てていく。自分がかわいい「なんか」にあてはまる男だと舐められないために。それはあんさんぶるスターズ!の世界でも現実と変わらず、現に少女のように美しい容姿をしているなずなもモノローグで「かわいいと言われることがうれしくない」と発言したことがある。
 けれどRa*bitsとして活動を続ける中で、彼は、彼らは、すこしずつ考えを変えてゆく。「かわいい」は侮られることでも、恥でもなく、自分たちのひとつの強みだと考えるようになるのだ。
 Ra*bitsは「かわいい」の価値と強みを見つけて、大事に武器にしてくれる。みくびられることもバカにされることもないものとして受け入れて、そして守ってくれる。
 私は、腐されバカにされつづけ、それでも搾取されてきた「かわいい」をみくびられたくない。「かわいい」を愛している。だから「成長期の少年」なんてもっとも「かわいい」を忌避して当然の子たちが、むしろ自分たちにしか手にできない武器だと、愛してくれることがたまらなくうれしかった。
 それを象徴する友也くんのせりふが、ストーリー「モーメント*未来へ進む返礼祭」にある。
――「俺たちは『Ra*bits』! まだまだ未熟だけど、そのぶんいつでも全力でがんばる『ユニット』です!」「えっ、まだまだおっきくない? ちっちゃくてかわいい? ありがとうございます!」「俺たちも、『かわいい』を損なわないまま立派に強く成長できたらって思います!」「そんなの普通じゃないけど、それって最強ですよね! そして、そんな生き物は世界中にいっぱいいます!」「生涯、死んじゃう直前まで兎はかわいい!」
 私が、友也くんのせりふのなかでいちばん好きな言葉だ。
 とりわけ好きだと思うのは、「かわいい」と「成長」が両立する概念だと提示しているところだ。
 「かわいい」は、第二次性徴を本格的に迎える前の、儚い少年時代にしか得られない時限式の魅力である――そんな世にあふれた「かわいい」という概念をみくびる言説を否定してくれた。たとえ成長しても。たとえば身長が百七十センチを超えても。成人しても。究極、還暦を迎えたって、Ra*bitsは「かわいい」でいてくれる。
 Ra*bitsの「かわいい」とは、「少年時代の今しか持てない一瞬のきらめき」などではないからだ。もちろん彼らの成長に伴って、パフォーマンスや売り方は変わってゆくだろう。しかし彼らが「かわいい」を失うことはない。それは、「だれかを笑顔に、幸せにできる」という強靭かつ持続可能な概念だからだ。
 私は友也くんのことが、かわいい男の子だから好きなのではない。(もちろんかわいいから好きなのだけれど……)彼が「かわいいをやってくれる」から好きだ。十代後半の少年というおよそ「かわいい」を忌避し腐すスタンダードでありながら、葛藤の末に「かわいい」を選んで、意識的に戦略としてそれをやろうとしてくれるところが好きだ。
 彼の本質が、自然体がとりわけ「かわいい」わけでもない、それどころか「かわいい」を忌避してさえいた「ふつうの感性」を持ち合わせている友也くんだからこそ。その「かわいい」をみくびったり腐したりせず、ひとつの強みとして素直に選んでくれたことがうれしいと思う。希少なことだと思う。
 友也くんは、「ふつうの男の子」でありながら、「ふつう」であれば忌避しがちな「かわいい」を通して、かつて何者にもなれなかったコンプレックスだった自分を変えようとしている。それが友也くんの強みだ。

 


3、未来を見るひとであるところ

 前項まで、とにかく友也くんの「ふつうさ」にスポットライトを当ててきた。
 自他ともに認めるほど、友也くんは「ふつうの子」である。
 しかし彼にも、他のだれにもない「ふつうじゃない」部分があると思うのだ。
 それは、友也くんが持つ柔軟性、革新性であると私は考える。
 渉との関係においても、その友也くんの柔軟さが彼らの関係を変えた大きなポイントとなっている。友也くんは、「ふつうの子にしては異様に器がおおきくやわらかい」のだ。言い換えれば「面の皮が厚い」ともいえるし、「根が素直」だともいえる。
 たとえば渉との関係において、友也くんは渉がはじめて自分に見せた、いままで知らなかった一面にいたく衝撃を受ける。それまで「自分なんかとはちがう、ひとつもふつうじゃないあたまのおかしいやつ」だと思っていた渉が、友也くんの手に届くようなやわらかな面を持ち、さらにそれを自分に見せてくれたことに対して、「いとおしい」という感情を抱くのだ。
 それまで、さんざん、「しね」とか「ころす」とか「訴えてやる」とか「あたまがおかしい」とか言いまくって逃げ回り、邪険にしていた相手にである。(これはもちろん渉の言動が突飛すぎたというのも原因ではあるが……)
 内心思うだけではない。上気の出来事以降、同じく演劇部の先輩である北斗に「友也の態度がいやにやさしい」といぶかしがられるほど、目に見えて渉への態度が軟化するのだ。
 どの面下げて……と言えばいいのか、なんてすなおな……と言えばいいのか。とにかくそういった柔軟かつものごとを受容しやすい面が友也くんにはある。
 2で述べた、ふつうの少年でありながら「かわいい」を自らの強みにできたことも、そういった要素が強く影響している。1で述べた同ユニットのメンバーかつ友人である創と光に抱いている優越感と劣等感も、彼は自分でそれらをみつめ、その存在を認めて、それから「だからこうなりたい」と新たな自分を描くのだ。
 友也くんのキャッチコピーが、ズ!時代の「普通が一番……じゃだめ!」からズ!!で「普通で真面目が取り柄」になったことが、私はとても好きだ。
 自分がいま持ってるものを、腐さず、受け入れて、強みにしていけるしたたかさと柔軟さ、さらに磨こうとする矜持が彼にはある。

 


4、顔

 いろいろと言ってはみたものの、とにかく顔が好みなのだ。
 私が好きになる人間の顔というものが、最近になってやっとわかってきた。
 まず、顔が丸く、ショートカット、髪がふわっとしていて、そして目はたれ目。実在のアイドルで言えばSexyZoneの菊池風磨氏。ほかのアイドル育成ゲームで言えばアイドルマスターシンデレラガールズ輿水幸子だ。
 友也くんは全体的に輪郭が丸く、なぜか韓国のファンダムでは「아기 감자(赤ちゃんジャガイモ)」と呼ばれるほどである。
 また公式設定でキャラクターのうち比較的たれ目がちで、かつ目がかなり大きい。あんさんぶるスターズ!!MUSICの3Dモデルでは、全キャラクターの中でも目の大きさを比べるとおそらく一二を争う大きさだろう。そのおっとりして見える大きな目と、本人の「ふつうの(先輩に暴言すら吐ける)男子高校生」という性格を反映したようなつり気味の太眉のコントラストが、また愛らしい。
 そのまままるごと、とにかく友也くんの顔が好みなのである。

 

 

おわり